捕食する桜

都会に住み始めてからというもの、ずっと疑問に思っていたのだけど、
どう考えても人身事故が少なすぎる。
暮らし始めてはや半年、毎日毎日電車に乗っているのに、
まだ一度も人身事故を見たことがない。
終電間近の横浜駅には溢れんばかりの人が居て、その大多数が酔っ払い。
酔いに任せて狭いホームを右へ左へふらふら、ふらり、
それでもきちんとドアが閉まって電車は進む。
なんかちょっとホームにはみ出してゲーゲー吐いてる親父もいるのに。
なのにドアは閉まって電車は進む。
これはどう考えてもおかしい。
3日に一人くらいは跳ね飛ばされたりひき潰されたりする人がいてもいいはずだ。
きっと真相はこうだ。
確かに三日に一人くらい、電車は人を轢いている。
酔っ払いたちの隙間を縫って、ホームに転落する大酩酊親父。
飲み会帰りの人々が奏でる闇雲な喧騒にかき消されて、誰もそれには気づかない。
気づくものはただ一人、ホームに入る電車を操る運転士。
進む先に寝そべる人影を見つけるも、電車は急には止まらない。
それにダイヤも乱せない。
そのまま進んでドア開けて、ドアが閉まって発車して、次の駅には定刻どおり。
鉄のレールと木の枕木の、あいだに染み込む親父の血と酒。
地面をゆっくり流れていって、やがて届いて桜の木の根。
その養分を吸い取って、桜は花を咲かせるのだろう。
闇夜に浮かぶ花びらを、薄紅色に染めるのだろう。


そんな桜を酒の肴に、今日もどこかで花見があって、
終電間際の駅のホームは、酔っ払いで賑わっていて、
定刻どおりにドアは閉まって、定刻どおりに発車する。

さよなら、酒と記憶障害の日々。

今やってる仕事がようやくひと段落、っつうことで、
金曜は久しぶりにみんなで飲みに行ってまいりました。
仕事の重圧から解放され、なんだかみんな楽しそう。
ついついピッチも上げ調子。僕もつられてハイペースです。


僕の場合、いくつかあるんですよ。
飲み会の時、気をつけなければならないこと。
ひとつ。記憶を無くさないこと。
ひとつ。財布を無くさないこと。
ひとつ。メガネを無くさないこと。


途中までは酔っ払わないように、失態かまさないように、
気をつけながら飲んでたはずなんですが、今回も酒の魔力には勝てなかったらしく、
とんとん拍子に酔いも回ってすっかり酩酊、記憶障害。
で、気づいたらなんか家でした。
えええ、またやっちゃったよ、記憶ねえよなんてドキドキしながら財布の安否を確認すると、枕元に馴染んだ感触が。やった、あった財布。中身もどうやら無事のようです。得体の知れない名刺類も入っていません。よし、ここまでは100点ね。記憶なくしてる時点で点数的には採点不能なんですけど、まあ財布あればあとは二の次ね。
一つ目のチェックポイントをクリアし、二日酔いの頭で二つ目の安否確認に入ります。
ええと、メガネメガネ。。。
メガネメガネ。。。
確か上着の胸ポケットに。。。ええと上着上着。。。
上着上着。。。上着上着うわぎ。。。


それから探すこと数時間。
どう考えても上着ごと無くしてます。
本当にありがとうございました。
そしてさよなら、酒と記憶障害の日々。

ニワトリ並みの

毎日毎日凝りもせず、連日シャンプーを買い忘れ続けています。
ああ、今日でもうそろそろ一ヶ月くらい経つんじゃないかな。
いつも風呂入る直前に気づいて「あ!今日も!」と凹むのな。
ああ、明日こそは。
明日こそは。


桜木町近辺でスチールウールみたいな頭した若者見かけたらそれはきっと僕なので、
後から「シャンプー!」とどうか叫んでやってください。

王者パン

突風強風どこ吹く風で、世間の風もいざ知らず。
壁に囲まれながら昼夜働き続ける日々を送っている、こちら大酩酊なんたらの管理者モジャ毛さんです。どうも。こんばんは。仕事の野郎がどうも僕を殺そうとしているみたいなのよ最近。
最近といえばアレね。巷では王ジャパンとやらが話題らしいね。
しかも今日はその王ジャパンがだいぶおめでたい事象を引き起こしたらしいね。
壁の向こうで町がざわめいているのを感じたもの。
おめでとう王ジャパン!なんて口々に叫ぶ声が聞こえたもの。
よーし、壁のこっち側で僕も叫んじゃうぞー。
ディスプレイに向かったまま声高に叫んじゃうぞー。
おめでとう、王ジャパン!心から嬉しく思うよ!
で、王ジャパンとはなんだ。
スポーツがらみとはきいているのでさてはあれか、キングカズみたいなモンか。

カルデラファンタジー

横浜線混みすぎ。
今週の横浜線混みすぎ。
今週も朝もはよからセッセセッセと早起きして、出社するべく朝の横浜線に揺られているわけですけど、なんか今週やたらと横浜線混んでないですか?
火曜日なんてホント肋骨折れるかと思ったもの。肋骨軒並み折れ倒すかと思ったもの。まあ1本で済んでよかったですけど。


でもまあ、横浜線混みすぎっつう話ですよ。もうね、人の肩に阻まれて、つり革握った腕も下ろせやしない。そんな状態だから、ipodの操作もできやしない。ああ、この曲飛ばしたい・・・、ダルい・・・、なんて思いながらなす術もなく、人と人の間にすぽっっと収まって出勤しているわけですが、つい最近こんな光景に遭遇しました。


いつものように混んだ横浜線。わりとミニマムな身体的特徴を利用し、他人の背中を枕にウトウトとしていた僕。気づくとどっかの駅に停車したらしく、ぱらぱらぱらっと降りていく人の波。隙間が空いたことで流れ込んできた久しぶりの酸素をありがたく思いつつも、次の瞬間、その隙間を埋め尽くして余りあるほど乗り込んでくる人の大波。背中と背中にぎゅううっと潰されつつも、再びウトウトしようとする朝の自分。


で、走り始めた電車の中でふと目を覚ますと、そこには異様な光景が。


僕がベッド代わりにしていた見知らぬサラリーマンの肩の向こう。その向こうでこれまた見知らぬオッサンが禿げ上がりながらつり革にぶら下がって電車に揺られてんのね。
まあ、これだけならただ通勤風景なんですけど、どのオッサンの肘が女子高生の胸にめりこんでんのね。めり込む、っつっても胸と胸の間にすっぽりはまった、とかじゃなくて、もう、なんつうかなあ、山が二つあるとするじゃないですか。で、まあ、両方同じくらいの高さだとするじゃないですか。その双子山の片方が、山頂からグニイイィッとひしゃげてんのね。阿蘇山で言うとカルデラの部分?そのカルデラの部分に、オッサンの肘がジャストでミートしていて、グニイイイィッてなってんのね。
ここまで聞いて、「うらやましいなあオイ!」なんて思う人もいるかもしれない。でも、なんつうか、そこで見た風景はうらやましいとか程遠いわけですよ。
明らかに自らの乳頭を刺激する不快な肘の感触を意識しながらも、どうして良いのやら判断つかず、何気ない素振りを装いながらつり革広告に目を泳がせる女子高生。
明らかに自らの肘の先にある、やわらかい存在を意識しながらも、人波に阻まれて下ろすことも出来ず、途方に暮れた表情で肘を押し当て続けるオッサン。


やるせないですよ。
これ、目にしちゃった方がやるせないですよ。
オッサン、きっと気が気じゃないもの。いつ訴えられるかという恐怖に怯えながらも、どうすることも出来ず押し当て続けるしかないもの。なるべくグリグリしないように、そうっと押し当て続けるしかないもの。
まあ、もしこれで女子高生側から訴えられたとしよう。
そのとき、オッサンとしては「あ!当たってました?気づかなかったなぁ、すみません!」なんて、不可抗力ですよーなんて振る舞いを見せるしかないんだろうな。
でも、それにしては汗掻きすぎだもの。なんかそこだけ夏だもの。きっとオッサンの中では今、物凄い葛藤があるんだろうな。引っ込め汗・・・引っ込め汗・・・なんて思いながら、般若心経でも唱えてるんだろうな。
やるせない。
ああ、やるせない。
オッサンは何も悪くないのに。抗えない力に、ただ、流されているだけなのに。なんて不憫なオッサン。
ああ、できることなら今すぐ変わってあげたい。

世界は暗号に満ちている

こないだ久しぶりに本屋に行ってみたところ、とょっと前話題になったダヴィンチ・コードがついに文庫化されたらしく、大々的な特設コーナーが設けられていました。
ついうっかり「え?なに?登ればいいの?」と思っちゃうくらいの階段状に積み上げられた本の山から、これまたついうっかり上中下のフルセットを手に取ってしまい、夜な夜な読み耽る毎日を過ごしています。


稀代の天才、レオナルド・ダ・なんとかが自らの作品の中に残した暗号の数々。それを歴史学者としての経験・知恵・そして勘を駆使し、ひよこのオスメスを見分ける専門職のごとく勢いでバッサバッサと解き明かしていく主人公。え、誰もが知ってるあの名画にこんな謎かけが?という場面の連続で、もう、読み進める手が止まらんよね。
きっとそうだ、世界は暗号に満ちているのだ。
この五円玉に歯車と稲穂と水田の絵が隠されているように、キリンビール麒麟に「キ」と「リ」と「ン」の3文字が隠されているように、この部屋にだって誰かが仕掛けた暗号は満ち溢れているのだ。


その向こうに漆黒の闇を携える夜の窓。
カーテンレールに掛かる、干したばかりのカッターシャツ
時計の針は01:55を指している。
部屋の中には風呂にも入らず、未だスーツを着たままの男が独り。


これらの要素が導き出す答えはひとつ・・・。そう、明日も起きれんよね!
暗号でもなんでもないよね。